軽さが一番
空冷RSコレクション の原点は、幼少時代 に祖父から投げかけられたある質問だった。今や博物館も顔負けのコレクションだ。
「当時10 歳だった彼に「ヨハン、どんな車を買ったらいいと思う?ポルシェがいいかな。それともコルベット?」。祖父のジム・デルウィッシュが質問を投げかけた。そして、その答えが、ヨハンの人生を大きく変えることになる。
「当時、祖父はイギリスのスポーツカーに乗っていたのですが、使い勝手の悪さには苦労していて、別のクルマに乗り換えたかったのでしょう。今にして思えば、その後の私の運命を決定づける瞬間でした」。当時10歳だった彼がどちらのメーカーを選んだのか、その答えが今、目の前にある。ベルギーのアントワープにある広々とした明るいガレージの壁に作りつけられた棚。そこには約50台のポルシェが美しく、整然と並んでいる。
祖父のジム・デルウィッシュは、孫の直感を信じてポルシェを購入した。ディリクスは懐かしそうに振り返る。「最初に手に入れた2リッターの911タルガSに続いて、2.2リッターの911S、そして2.4リッターのSが届きました。私が本格的に911マニアになったのは、ビビッドイエローのカレラRS 2.7が納車された時です」。運転免許の試験に合格したディリックスに、祖父はこの車を使わせてくれるようになった。これが最初の恋の火 種……いや、911に対する永遠の愛の誓い となった。
大学で経済学を専攻したディリクスは、18歳にして初めてのポルシェ、中古の911 Tを購入したが、レストアの予算などなく、祖父の車を拝借する日々が続いたという。「まだ車の少なかったアントワープ周辺の道路を、911ターボで走り回った思い出は忘れられません」。
現在、ディリクスのガレージには素晴らしいコンディションの3.0と3.3、2台の911ターボ(タイプ930)が収まっている。「クルマは、オリジナルの状態のまま経年変化も含めてきれいに残すか、完璧にレストアするか、どちらかでなければなりません」と、ディリクスは旧いモデルに対する自らの哲学を語る。「レストアするなら、可能な限りオリジナルの状態を保ちたいですね」。
社会人になってから、ディリクスはこの哲学を極めていった。33歳の時に購入したもう1台911、スタールビーの911 RS(タイプ964)は、彼が生涯傍に置いておくために買った車だ。祖父のRS 2.7を走らせた経験を通じて911の軽量モデルに魅了された彼にとって、“RS”の二文字は特別な意味を持つ。「わざわざ肉をそぎ落としたクルマに高いお金 を払うなんて……と思われるかもしれません が、964 RSはレーシングカーの本質を感じさせてくれる車です」と、ディリクスは語る。そして彼は、軽量911への愛情を育むきっかけとなった★あの★(★傍点★)車を探し始めた。「30年の時を経て、バルセロナ近郊で祖父のRSを見つけたのです。ところが、すっかり別の車になってしまっていました。新しいオーナーは911 Tのボディを模範にレストアしてしまっていて、私が知っているRSではなくなっていました」。現在、彼のコレクションには2台のRSが轡を並べているが、そのうちの一台は極めて希少なRS 2.7ホモロゲーション・ライトウェイトだ。
しかしガレージの主役は僅か20台しか生産されなかった“聖なる一台”、1967年型の白い911 Rだろう。ディリクス曰く、「貴重過ぎて、気軽に走らせることができないのが残念です」。
「主役は 911 R ですね」
ヨハン=フランク・ ディリクス
彼のコレクションのテーマは“軽量ボディの911”であるが、空冷RSの全モデルを所有するという目標はまだ達成されていない。IROC RSR以外ほぼ達成しているかと思いきや、ディリクス曰く「RS 3.0や3.0 RSR、新しめのところでは934や僅か20台しか生産されなかった911 SC/RSもターゲットになります」。
ディリクスは911 GT3 RS(モデル996)や1970年代の名車“モビーディック”をモチーフにした2019年型935など、水冷エンジンのモデルも所有している。しかし結局のところ、「空冷エンジンを搭載する軽量設計のレーシングカーが好きですね」と彼は言う。「限界領域でのコントロールは難しいですが、何れもすごい車ばかりです」。
ポルシェを愛する彼はポルシェを操る技術にも長けていて、デイトナ24時間レースに2回、セブリング12時間レースやル・マン・クラシックにも出場経験がある。「冬は北欧の凍った湖の上でドリフトの練習に励みます」と言いながらステアリングを回すジェスチャーをする。よく見ると、足もアクセルを踏むようにタップしている。そう、ディリクスはコレクターである前に、無類の運転好きなのだ。
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