サクセスストーリー

1996 年、ブランドを支える新しい大黒柱としてポルシェ・ボクスターが誕生した。 そして今年、伝説の 550 スパイダーをモチーフにしたミドシップ・コンセプトの 成功を記念した特別限定モデル “ボクスター 25 イヤーズ” が発売されることになった。 初代ボクスターの開発責任者を務めたホルスト・マルハルトにデビュー当時の 思い出を振り返ってもらおう。

   

ポルシェの誰もがアクションを起こさなければならないことを自覚していた 1980 年代終わり頃。そして経営難に陥っていたポルシェを見事に救い出したのが、1996 年に発売されたボクスターで あった。ポルシェの市販パワーユニットとしては初となる水冷 6 気筒水平対向エンジンをリア・アクスル手前にマウントした 2 座ミドシップ・オープンカーは、俊敏性に優れ、特に若年層の掴んだのである。ポルシェにおける大規模な組織再編の最中に登場したボクスターの生みの親のひとり、ホルスト・マルハルトは当時、車輌開発全般を取り仕切る部門長を務め ていた。

1991 年の春、ポルシェの役員オフィスに招かれて意見を求められたホルスト・マルハルトはこう答えたという。「すべての作業を停止して、ニューモデルの企画から開発、生産まで一貫して行うべきです」。なによりも直感を大事にする当時 52 歳のマルハルトに自らのインスピレーションを具体化する仕事が求められたが、その具体案こそ、斬新な第二のモデルレンジを市場に投入する計画であった。その新型には、ポルシェというブランドの遺伝子を明確に受け継ぎながらも既存のスポーツモデルとは一線を画す独自性が与えられ、911 をはるかに下回る車輌価格が設定された。プロジェクトの具体的な開発手順が記された企画書の提出期限について問われたマルハルトは、「私に 4 カ月ください」とだけ答えたという武勇伝が伝えられている。

開発主任を囲んで(1993 年):

開発主任を囲んで(1993 年):

ホルスト・マルハルト(中央)とフェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(左)、そして 1988 年までポルシェ社長としてヴァイザッハで研究開発を束ねていたヘルムート・ボット(右)

ポルシェの未来を左右する大きな決断を目の当たりにしてきたホルスト・マルハルトは当時の状況を振り 返る。「完成度の高い 993 世代の 911 が市場に導入される直前でしたが、911 と技術的類似点が少ない後輪駆動の 928 や 944、968 も併売されていました」。技術的かつ戦略的な課題は、新しいスポーツカーを 911 の後続モデルと密接に結びつけることであり、さらには、ポルシェ伝説のスパイダーをモチーフにしたデザインとレイアウトを踏襲させることだった。そして、2 座ミドシップ・ロードスター開発を目的とした企画書はポルシェの役員会にそのまま承認され、モデルネームはブランドを象徴する 6 気筒 “ボクサー” エンジンと “ロードスター” に因んで『ボクスター』と名付けられた。また、993 型 911 の後を継ぐ 996 世代の水冷化がすでに決定していたこともあり、ボクスターのパワーユニットにも同形式の水冷エンジンが採用されることになった。

グラント・ラーソンが設計した最初のスタディ・モデルは、ミドシップ・レイアウトを基本に、フロントアクスルから前方へと伸びるフロントエンド、短めに設定されたリアのオーバーハング、そして中央に配置されたエグゾースト・パイプなど、1950 年代に活躍した 550 スパイダーと 1960 年代の 718RS60 スパイダーの面影を強く想起させるものだった。さらにユニークなレイアウトのエアインテークとエア・アウトレットは象徴的なデザイン・ランゲージを形成し、シルバーのエクステリア・カラーと細部にまでこだわったレッドのインテリアは、ポルシェの歴史を 強く感じさせると同時にブランドの新たな出発を示していた。

「1993 年にデトロイトでの圧倒的な反響を見た瞬間、 私たちは成功を確信しました」 ホルスト・マルハルト

1991 年秋に研究開発担当役員に任命されたホルスト・マルハルトは、ニューモデルがブランドを代表する 911 のイメージ傷をつけることなく大きな成功を収めると信じていた。「993 世代の 911 は非常に優れていたため、たとえボクスターと競合したとしても 1998 年までと予定されていたモデルサイクルを全うできることは明らかでした。1993 年春にデトロイト・ショーで発表したボクスターコンセプトスタディを見た人々の圧倒的な反応を見た瞬間、私たちは正しい決断をしたのだと確信したのです。熱気に包まれたモーターショーが終了すると、私はすぐさまコンセプトに忠実なスタディ・モデルの開発をプロジェ クトティームに指示しました」。

1996 年 8 月、市場に導入されたボクスターは、デトロイトモーターショーで得た万雷の拍手に十分こたえるもので、フロントエンドのデザインには 1 年後にお目見えする 996 世代の 911 と同じエッセンスが先んじて織り込まれ、ポルシェ・ファミリーへの属性が明確化されていた。技術的にも見どころが多く、後に 911 やケイマンにも搭載される全く新しいユニットの基礎となった水冷 4 バルブ 6 気筒ボクサー・エンジンエンジンにはバリオカム技術が投入され、標準仕様の 5 速マニュアル・トランスミッションに加え初めて 5 速ティプトロニック S オートマティックが組み合わされた。レース由来のモノブロック軽合金製 4 ピストン・ブレーキキャリパーの採用も見逃せないハイライトだ。

特別限定モデル:

特別限定モデル:

718 ボクスター GTS4.0(燃料消費量 総合:10.9 〜 10.1リッター/100km、CO2 排出量 総合:247 〜 230g/km(2021年3月現在))がベースとなった 1250 台限定モデル『ボクスター 25 イヤーズ』が 搭載するエンジンは水冷 4 リッター 6 気筒水平対向ユニット。1996 年に登場した初代ボクスターに 比べると実に 2 倍のパワーを発揮する。ボクスター生誕 25 周年を記念する特別モデルのエクステリア・カラーには 1993 年のスタディ・モデルを彷彿とさせる GT シルバーメタリックが選ばれ、ボルドーレッドのレザー・インテリアが組み合わされる(外装色にはジェットブラックとキャララホワイトメタリック。コンバーチブルトップおよび 内装にはブラックもオプションとして用意されている)。フロントエプロンやサイドエアインテーク、20 インチ 軽合金ホイールにはブロンズ系のコントラストカラー “ネオジム” が効果的にあしらわれている

その後のボクスター進化の歴史は、一冊の本では語り切れないほど内容が濃いもので、2003 年、2005 年、 2007 年、2012 年にフルモデルチェンジが敢行され、 2016 年には 4 気筒ターボエンジンを搭載する 718 モデル世代へとバトンが受け継がれている。

安定感抜群のドライビングプレジャー:

安定感抜群のドライビングプレジャー:

ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM) は標準装備。オプションでポルシェ・ドッペルクップルング(PDK)仕様も用意されている

スポーツカーから孤高のアスリートへと成熟を遂げたボクス ターの最高出力は、初代の 204PS から最新の 25 周年記念モデルでは 400PS (ポルシェ ボクスター 25 イヤーズ: 燃料消費量 総合:10.9 〜 10.1リッター/100km、CO2 排出量 総合:247 〜 230g/km(2021年3月現在))へと大きく飛躍している。

オールインクルーシブ:

オールインクルーシブ:

特別限定モデルの標準装備には、アルミニウムインテリア パッケージ、14 ウェイ電動調整式スポーツシート、ヒーター機能付き GT マルチ ファンクションスポーツステアリングホイールなどが含まれている

1250 台完全限定で販売される 25 周年記念モデルは、初期コンセプトスタディへのオマージュとも言えるもので、再定義されたネオジムカラーが印象的である。妖艶なブロンズ系の輝きを放つこの色は、ベースカラーの GT シルバーメタリックと華麗なコントラストをなし、内装のソフトトップ・レザーは、初期のスタ ディ・モデルと同様にレッドで統一されている。

ポルシェにとって一大転機となったボクスター開発の歴史を振り返るホルスト・マルハルト。プロジェクト立ち上げ初期に注がれた彼の情熱と大胆さは、現行の 718 モデルレンジにも息づいている。そう、冷静に試行錯誤を繰り返したからといって、優れたスポーツカーが生まれるとは限らないのだ。マルハルトは嬉しそうに微笑みながら当時の記憶をたどる。「ヴォルフガング・ポルシェが私に『ボクスターが成功して、10 年後のプロジェクトを考えることになった場合、君ならどうするのか』と問いかけてきたことがあったのですが、『その時は 4 シーターのニューモデルをご覧頂いていることでしょう』と返事をしたのを今でも覚えています」。果たして、それがカイエンとして結実したことは、周知の事実である。

Ben Winter
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