ミドシップの潜在能力

今からちょうど 50 年前、サーキット仕込みのミドシップ・レイアウトを市販の 914 に採用したポルシェ。その伝統を今に受け継いだ最新のミドシップ・スポーツカー、ポルシェ 718 ケイマン GT4 と 718 ボクスタースパイダーの内実に迫る。

  

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  • Right in the Middle

その特徴的なシルエットを確認するより前に、野太いエンジン・サウンドが聞こえてくる。空気を振動させる重量感あふれる低音。それが近づくにつれ、6 気筒自然吸気エンジン特有のエッジを効かせた中音がクレシェンドで重なる。とてもパワフルで、感情を揺り動かされる音だ。そして突然、シャープなシルエットが現れたかと思うと、そのまま高速コーナーを綺麗に旋回していく。当時、最強最速のミドシップ・スポーツカーと言われたモデル。ポルシェが半世紀前にサーキットからロードへと送り込んだ伝説の市販モデルだ。

ヴァイザッハで GT カーの統括主任を務めるアンドレアス・プロイニンガーは、走り去るその後姿を追いながら言う。「ミドシップ・コンセプトが採り入れられたポルシェのスポーツカーは独特ですし、その持ち味は今日も変わりません」。彼の言う “持ち味” とは、ドライバー至近の低い位置にマウントされた水平対向エンジンが奏でるビートのことだ。プロイニンガーは「それこそがミドシップ・ポルシェのキー・ファクターであり最大のセールスポイントなのです」と力を込める。

ポルシェの市販車輌といえば、1969 年までリア・エンジンが主流であり、着脱式のタルガトップと格納式ヘッドライトを採用したスクェアなボディ・デザインが与えられた 914 がポルシェに新境地を開いた。当時チーフデザイナーだったハインリッヒ・クリーはエクステリアをラジカルにそぎ落とし、サイズ的には 911 より全長が 18cm 短いにもかかわらず、ホイールベースは 24cm 長く、全高は 123cm と 1967 年製の 911S より 9cm も低く、全幅は 4cm ほどワイドに設定された。そして要となるボクサー・エンジンはレーシングカーと同様、リア・アクスル前方の低い位置にマウント。その結果、914 は低重心と低重量を見事に両立したわけだ。911T 譲りの 2 リッター水平対向 6 気筒エンジンを搭載したパワフルな 914/6(110PS)でさえ車輌重量はわずか 980kg に抑えられていたのだから、設計の妙と言えるだろう。より軽いベースモデルの 914(80PS)は、まさに路面に吸い付くかのように高い操縦安定性を発揮した。ちなみに 914 はポルシェとしては例外的に 4 気筒モデルの場合、イグニッション・ロックが右側に、ハンドブレーキがドライバーシートの左側に配置された。


「特にタイトなコーナーが続くセクションでは、ミドシップ・レイアウトの機動性が活きてきます」と説明するのは、718 モデル・レンジの担当主任、ヤン・ロートだ。914/4 は 1969 年から 76 年までの 7 年間、オスナブリュックのカルマン社で合計 115631 台が組み立てられ、ツッフェンハウゼンで生産された上級モデルの 914/6 は72年までに計 3338 台がラインオフした。また本社工場では最高出力 210PS を誇るクローズドルーフの 916 が 11 台と、レース仕様の 914/6 GT が12 台、そして 8 気筒のレーシング・エンジンを搭載した 2 台のプロトタイプがフェルディナンド・ピエヒとフェリー・ポルシェのために作られた。

異色のオーラを放つ 914 は、フォルクスワーゲンとポルシェによる共同開発モデルの先駆けとして知られるが、最初の提携は長くは続かなかった。今日そのエクステリア・デザインを見ると、当時の時代背景が浮かび上がってくる。代表的なボディカラーと言うべきシグナルオレンジにしても、ミニスカートやベルボトム・ジーンズが流行していた 70 年代の中流階級向け住宅でよく見かけた色だ。とは言え、914は決して流行の波に乗った訳ではなかった。

そもそもミドシップ・コンセプト自体は 1930 年代にはすでに存在しており、1934年にフェルディナント・ポルシェがアウトウニオン・レーシングカーのタイプ 22 でそれを実現すると、ポルシェでも 1948 年に 356 “ナンバー 1” にミドシップ・コンセプトを採用。しかし、4 気筒エンジンがリア・アクスル手前、そしてトランスミッションが後方に配置された元祖ミドシップ・モデルの 2 シーター・カブリオレボディでは収納スペースが十分に確保できなかったため、フェリー・ポルシェはクーペ・ボディとすることを決断。その開発過程においてリア・エンジン・レイアウトが採用されることとなり、果たして 2+2 のシート・レイアウトと広いラゲッジ・コンパートメントが実現し、初代ポルシェが誕生したのであった。

世代対決:

世代対決:

本誌『クリストフォーラス』の写真撮影のため、ヴァイザッハにあるポルシェ研究開発センター内のテストサーキットで顔を合わせた新旧のミドシップ。新型 718 ケイマン GT4 と 50 年前に製造された 914/6

その後、ポルシェのミドシップ神話を確固たるものにしたのがアルミニウム・ボディを纏い、 1954 年にリリースされた 550 スパイダーである。レンシュポルトを愛好するアメリカ人を熱狂させたコンパクトな 2 シーターの最高出力は当初 110PS であったが、4 カムでチューニングされた RS モデルでは 135PS に引き上げられている。550 スパイダーは、当時一世を風靡したアメリカ人俳優、ジェームズ・ディーンの最後の愛車としても有名だ。

ミドシップ・ポルシェの代表作といえばもう一台、FIA の GT2 クラスに合わせて作られ 1964 年にデビューした 904(正式名カレラ GTS)が挙げられる。当時、ポルシェは GT2 ホモロゲーションを取得するために 100 台の市販モデルを作る必要があったが、最終的に注文数は 116 台に上り無事に目標をクリアし、デビューイヤーのタルガ・フローリオでワンツー・フィニッシュ。フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェが手掛けたカレラ GTS の樹脂製ボディは自動車デザインの歴史に新たな 1 ページを刻み、その華々しい戦績と共にポルシェ・モータースポーツの栄光を象徴する一台となった。

しかし 1976 年に 914 の生産が終了すると、以来 20 年間、ミドシップ・ポルシェの系譜は途絶えることになる。ポルシェは 914 の代わりに 924、928、944、そして 968 といったトランスアクスル・レイアウトの 4 気筒 FR スポーツカーの開発を進めていくわけだが、911 のエンジンが水冷化されるタイミングで同じ水平対向 6 気筒エンジンをミドシップにマウントする新しいロードスターの開発が進められ、1996 年、ついに初代ボクスターが登場し、ミドシップ・ポルシェが復活する。世界中で大ヒットモデルとなったボクスターの派生モデルとして 2005 年にはミドシップ・クーペのケイマンをラインナップに追加。前出のヤン・ロートは、ケイマン誕生の背景を以下のように説明する。「1990 年代のスポーツカー・マーケットでミドシップ・モデルに対するニーズが高まっていたことや、ボクスターが 911 との差別化に成功したことがケイマンの開発を後押しました。最適な重量配分と低い重心位置により、比類なき走行ダイナミクスを体験することができます」。

かくしてボクスターとケイマンは大成功を収め、2016 年には第 4 世代モデルとなる 718 シリーズがワールドプレミアを果たし、1950 年代に誕生した 550 スパイダーやその後続となった 718 モデルを彷彿させた 718 シリーズは、パワーユニットも同じ 4 気筒エンジンが与えられ、新たにターボチャージャーが装備されたのだった。

お好みで解除可能:

お好みで解除可能:

シャシーの運動特性とタイヤのグリップ性能の進歩は著しく、たとえすべてのドライブエイド・システムをオフにしたとしても、新型 GT4/スパイダーはまるで別の星からやってきた乗り物かと錯覚してしまうほど異次元の操縦安定性を発揮する

そして、その新しいモデル・レンジのハイエンドに今年加わるのが、718 ケイマン GT4 と 718 ボクスタースパイダーである。ケイマン GT4 に搭載される水平対向6気筒自然吸気エンジンは先代よりも出力が一段と向上。同じパワーユニットを積む 718 ボクスタースパイダーは、同等のシャシーとドライビングプレジャーを擁する “オープントップの GT4” という位置づけだ。「両モデルとも、その登場を待ち焦がれていたピュリストに捧げる極め付きのミドシップ・スポーツであり、彼らには今さらミドシップ・コンセプトの優位性を説明する必要などないでしょう。顧客は単なるスペックではなく、純粋な走る喜びを求めて 718GT4 や 718 スパイダーを購入するのです」と、アンドレアス・プロイニンガーは語る。

とは言え、クーペとカブリオレの両モデルの優れたテクニカル・データにも一度は目を通していただきたい。最高出力 420PS を発生する 4リッター水平対向 6 気筒エンジンは新たに開発されたもので、重要なコンポーネントは新型 911 から移植された強化型だ。車輌が一定速度で走行している間、6 本中 3 本のシリンダーが休止状態となる新しい制御技術により燃費も飛躍的に向上しているし、最新の排ガス基準にも準拠している。増大したパワーを受け止めるシャシーのブラッシュアップにも抜かりはなく、軽量アルミニウム製パーツの多くは 911GT3 およびカップカーから受け継いだもの。特殊なコンパウンドが配合されたウルトラハイパフォーマンス・タイヤと共に異次元のトラクションとコントロール性能を約束してくれる。さらにオプションのセラミックブレーキ(PCCB)を装備すれば、バネ下重量をホイール1本当たり最大 4.75kg(標準のブレーキ・システムに比べて約 50%)低減することができる。

先代モデルに対する優位性:

先代モデルに対する優位性:

718 ケイマン GT4 と 718 ボクスタースパイダーには先代モデルよりも高性能な 4 リッターの水平対向6気筒自然吸気エンジンが与えられた。

ドライビング・ダイナミクスを司る “ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント”(PASM)と  “ポルシェ・スタビリティ・マネージメント”(PSM)は新型 GT4/スパイダー専用に最適化されているが、これらの支援システムは他の GT モデルと同様、ドライバーの要望に応じて解除可能だ。

パフォーマンスの鍵を握るエアロダイナミクスも抜かりはない。新型 GT4/スパイダーは共にミドシップ・レイアウトであるため、リアにディフューザー・チャンネルを組み込むスペースが十分に確保されており、GT4 では 25%、スパイダーでは 50%、それぞれ基準モデルより(空気抵抗を高めることなく)ダウンフォースが増大している。それは、ロードゴーイング GT モデル担当のプロジェクトリーダー、マルクス・アッツが言うところの “エアロダイナミクス性能の効率化” だ。

かつて 914 を 914 たらしめていたハンドリング性能はどうだろう。「シャシーの運動特性とタイヤのグリップ性能は格段に進歩していますから、たとえすべてのドライブエイド・システムをオフにしたとしても、新型 GT4 とスパイダーはまるで別の星からやってきた乗り物かと錯覚してしまうほど異次元のハンドリンを発揮してくれますよ」と、アッツは満面の笑顔で答える。

そう、それは決して一朝一夕に仕上がったものではなく、ポルシェの半世紀におよぶ研究開発の成果なのだ。

ポルシェ 718 ケイマン GT4 / 718 ボクスター スパイダー
燃料消費量 市街地: 15.6リッター/100km
高速道路: 8.1リッター/100km
総合: 10.9リッター/100km
CO2 排出量(総合): 249g/km

ポルシェ 911 GT3
燃料消費量 市街地: 19.7 〜 19.4リッター/100km
高速道路: 8.8リッター/100km
総合: 12.9 〜 12.7リッター/100km
CO2 排出量(総合): 290 〜 288g/km
効率クラス: G

Klaus-Achim Peitzmeier
Klaus-Achim Peitzmeier