「今回のプラント拡張ミッションはまさに心臓切開手術のようでした」

ポルシェ AG 取締役会メンバーで、生産とロジスティックスを担当するアルブレヒト・ライモルトが、ツッフェンハウゼンの新風、タイカンについて語る。

  

ポルシェ初の EV スポーツカーの始動は、貴方にとってどのような意味があるのでしょうか?

タイカンの市場投入により私たちは新たな時代の幕開けを迎えます。ポルシェが新型 EV をツッフェンハウゼンの本社工場で生産するという決定こそがポルシェのメッセージ。タイカンは私たちにとって特別な一台です。卓越したパフォーマンスと航続距離の両立、最短充電を実現する革新的な 800V 技術、そして車輌のトータルコンセプトは唯一無二と言えるでしょう。日常利便性に長け、“ポルシェらしさ” も十全に込められています。

また、タイカンの実物をまだ見ていないお客様からの事前予約が 2 万台を突破しました。驚きの一言です。これほどの反応が得られるとは、私たちも正直、予想外でした。

発売に向けた準備は万全ですか?

もちろんです。私たちは当初の計画通りに新型タイカンの生産を開始します。現在はプロトタイプを試作中ですが、数週間以内に市販車輌の製作を開始する予定です。

タイカンの開発はポルシェの歴史上、最も高度な技術が要求されるプロジェクトだと見なされていますし、実際、ツッフェンハウゼンには専用の生産工場が新設され、数十億ユーロ規模の投資が行われていますね。

タイカンは私たちにとって非常に重要なモデルですので巨額の投資は当然です。このプロジェクトを当初の予定通りに実現するために相当な開発スピードが要求されました。ポルシェは 2015 年 9 月のフランクフルト・モーターショーでコンセプトスタディのミッション E を発表しましたが、同年 11 月には新しいボディ製造工場の起工式が行われ、そこでます現行 911 のボディ生産が始まりました。それから 6 カ月後にタイカンのアセンブリーに必要なスペースが追加整備され、同時に生産設備を設置。そこからちょうど 12 か月後にプロトタイプ第一号と開発用のテスト車輌がパイロットセンターから産み出されたのです。

物凄い開発スピードですね。その中で最大のチャレンジは何でしたか?

タイカン・プロジェクトに着手する前に私たちは本社工場を整理し、敷地内に新たな工場を設置しました。最新の生産技術と工程を採り入れたアセンブリーホールが、フル稼働する従来の生産ラインと並行する形で新設されたのです。ツッフェンハウゼンでは少し前の時期に比べて 911 の生産台数が一日当たり 250 台も増加していますから、それを考慮すると今回のプラント拡張ミッションはまさに心臓切開手術のようなものでした。フル生産体制を維持しながらタイカンの生産準備を行い、さらには地域住民への負荷軽減など様々な環境整備に配慮しました。ポルシェの本社工場は住宅地と商業地に隣接しているため、様々な道路や鉄道網が交錯しています。このインフラを前提に、多層構造の大型生産設備とどのような物流形態を構築できるかが大きな課題のひとつでした。

「タイカン・プロジェクトをスタートさせる前に私たちはまず本社工場を整理し、工場内に新たな工場を設置しました」 アルブレヒト・ライモルト

タイカンはライプツィヒ工場で生産する方が簡単だったのではないですか。ツッフェンハウゼンよりもスペースが十分に確保できるわけですから。

ツッフェンハウゼンは私たちのスポーツカーづくりの中心です。未来を担うタイカンをこの伝統の地で組み立て、その過程で雇用を守り、それをさらに成長させていくことはポルシェの強い意志なのです。私たちは、タイカンを “企業一丸のプロジェクト” にするために従業員協定を策定しました。今回のような一大プロジェクトを実現するためには、地元市民のご理解や監査役会の決定、そして従業員の協力が必要不可欠です。私たちは従業員の昇給額の 4 分の 1 に当たる金額をファンドで運用します。自動車業界では初めての試みです。

また私たちはタイカン・プロジェクトの推進を通して革新的な生産方式を確立していくことで、将来の生産の在り方を “ポルシェ・プロダクション 4.0 ~スマート、リーン、グリーン” というキャッチフレーズと共に積極的にアピールしていきたいと考えています。“スマート” は柔軟性のあるネットワーク化された生産、“リーン” は無駄のない効率的な資源利用、そして “グリーン” はサスティナビリティと環境保護をそれぞれ意味しています。私たちはまた、製品の環境性能も継続的に改善していきたいと思っています。実際、生産と物流分野におけるエミッション排出量は 2014 年に比べて生産車輌一台当たり 75% 以上低減されているのです。

つまり目標をすでに達成された、と。

いいえ、ツッフェンハウゼン工場におけるタイカンの生産ではゼロエミッションを目指しますし、さらにサプライチェーンや製品のライフサイクルを含めて、有機生態系にストレスを与えない生産工程を構築していく、というのが私たちの目標です。

それは、ポルシェが将来的に電気自動車に専念することを意味しているのですか?

そういうわけではありません。ポルシェはスポーツカーメーカーであり、これからもそうあり続けます。ガソリン・エンジンであれ、プラグイン・ハイブリッドであれ、または登場間近の純電気駆動であれ、ドライバーのエモーションに訴えるプロダクトであることに変わりはありません。私たちのメイン・マーケットであるプレミアム・セグメントは比較的小さなボリュームです。ですが、2015 年 12 月 12 日に締結された気候変動に関するパリ協定を重視し、エミッション排出量を低減させる責任が私たちにもあります。パフォーマンスとエモーションを犠牲にすることなく目標を達成することは可能です。現在までにパナメーラをご購入していただいたヨーロッパのお客様の 3 分の 2 以上はプラグイン・ハイブリッド・モデルを選択しています。純電気駆動であるタイカンのライフサイクルにおいても環境保護に対する努力を徹底していきたいと考えています。

駆動システムごとの将来的な販売台数の割合はどのように想定されているのでしょう?

私たちの予想では、2025 年までに純電気駆動またはハイブリッド車の占める割合が全ポルシェ・モデルの半数に達すると見込んでいます。

これまでのポルシェ・カスタマーにとっては衝撃的な数字ですね。

そうかもしれません。ですが、ご心配なく。タイカンのような純電気駆動車においてもポルシェ・ブランド独自のスポーツ性を重視したドライビング・ダイナミクスや圧巻のパフォーマンス、そしてエモーションを十分体感していただけるでしょう。製品が魅力的であればあるほど、ポルシェの EV に対する社会的受容が早まっていくはずです。私たちにはそれを実現する力があり、顧客のご期待の製品を提供する自信があります。

純電動駆動のスポーツカーと従来のエンジン搭載モデルの生産形式を比べた場合、大きな違いは何ですか。また逆に類似点はどのあたりでしょう。

単純に燃料タンクの代わりにバッテリーを、燃料エンジンの代わりに電気モーターを取り付ければよいという話ではありません。EV では燃料エンジンとエグゾースト・システムの代わりに、バッテリーや電気モーター、そしてそれらを冷却する装置を組み込まなければなりません。ボディを組み立てて塗装するまでの大部分の組立工程は同じですが、高電圧関連パーツの取り扱いに関しては新たな専門知識が必要ですので、従業員には研修を行います。そして最終的にはタイカンもポルシェが定める高い品質水準を満たさなければなりません。純電気駆動のスポーツカーとは言え、カスタマイズ用のオプションを他のポルシェ・モデルと同様に用意しなければなりません。私たちのカスタマーは幅広いカスタム・オプションに重きをおく方が多いですから。 一般のオプション以外にもお客さまの強いご要望があれば個別に対応しますし、それはタイカンも同様です。

タイカンの生産は従来式の組立ラインが用いられないという話は本当ですか?

はい、タイカンの組立には、プロジェクト当初から全く新しい生産コンセプトが採用されました。ツッフェンハウゼンで革新的な生産方法を確立する絶好のチャンスだったわけです。タイカンはステーション間の搬送を担う無人輸送システムを採用した “フレキシライン” と呼ばれる工程で組立てられることになっています。これによりプラント自体の構造も一新され生産の自由度が増すことになりました。“フレキシライン” はコストと柔軟性の点において大きなメリットがあります。床にコンベアを固定する必要がないため、投資額のおよそ 30% を節約することができました。そしてコンベアが固定されていないことで新しい工程の追加やバイパスなど、生産ラインの変更が容易なので、カスタマーの特別なニーズにより細かく対応することができるようになります。

「タイカン・プロジェクトをスタートさせる前に私たちはまず本社工場を整理し、工場内に新たな工場を設置しました」 アルブレヒト・ライモルト

タイカンの生産ではデジタル化でも新たなマイルストーンを打ち立てていますね。

そうですね。インダストリー 4.0 と関連付けられて “革命的” と言われますが、私の意見は少し異なります。なぜなら、私たちが過去に行ってきたオートメーション化やシミュレーション、そして VR を活用した生産・組立計画といった積み重ねの上に今日の開発手法があるのですから。デジタル化は、働く環境の改善に役立つ一方で、複雑なプロセスや作業ステップを分析する従業員をアシストし、透明性を高めてくれます。デジタル・データのルーティングが理想的でない理由を分析する場合など、人間には認識できない潜在的な解決方法を提示してくれることがありますから。

現在は工場無人化の初期段階にあるのでしょうか?

いいえ、ポルシェの工場では常に人間が中心であり、それはこれからも変わりません。オートメーション化は従業員の労力を緩和し、能力を支援するためのものであって、専門知識を持つマンパワーはこれまで通り必要不可欠です。なぜなら、カスタマー・ニーズに適応した高品質で高性能なスポーツカーづくりは、最新の技術設備と熟練スタッフの経験との組み合わせによって成り立っているからです。

つまり雇用が失われることはないということですね。

私たちはここ数年間で従業員数をほぼ倍増させ、今日 3 万 2000 人を超える従業員が在籍しています。タイカンとクロスツーリスモの生産に限っても、これからさらに 1500 名の従業員を雇用する予定です。ポルシェにとって EV の開発は “雇用促進エンジン” でもあるのです。

アルブレヒト・ライモルト

現在 58 歳のライモルトは、工作機械製造見習いを経て 1987 年にハイルブロン専門大学で生産技術を学んだ後、ネッカーズルムのアウディ工場で研修生として働き始める。その後、ボディ製造と革新的なアルミ・スペースフレームを採用した A8 と A2 の生産管理を担当。2002 年にはサンタアガタ・ボロネーゼにおいてランボルギーニ・ガヤルドの生産立ち上げをサポート。1 年後にネッカーズルムに戻った後は A6、A8、R8 の生産計画を引き継ぎ、2009 年に工場長に就任している。2012 年から 2016 年にかけてブラチスラヴァに本拠地を置くフォルクスワーゲン・スロバキアの CEO として小型 EV“e-up!” の生産とポルシェ・カイエンの生産準備を開始。2016 年 2 月よりポルシェ AG 取締役会のメンバーとなり生産・物流部門の責任を担っている。アルブレヒト・ライモルトの最優先事項は “持続可能性”。実際、彼のリーダーシップの下でポルシェは生産に起因する CO2 排出量の劇的な低減を実現できたため、ライモルトは今後、タイカンのゼロエミッション生産を目指す。彼の最終目標は環境に負荷をかけない “ゼロインパクト・ファクトリー” の設計だ。

ポルシェ パナメーラ E-ハイブリッド モデル
燃料消費量(総合):3.3 〜 2.6 リッター/100km
CO2 排出量(総合):76 〜 60g/km
電力消費量(総合):18.1 〜 16.0kWh/100km
効率クラス: A+

Porsche
Porsche