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ヨーロッパに生息するコイ科の淡水魚、ブリーク。食材としては細かい骨がのどに刺さりやすいことから、料理人からは敬遠されてきた魚だ。一方で 17 世紀には、この魚の鱗から採取されるヒポクサンチンとグアニンは、人口真珠の材料として重宝されていたという。

真珠光沢成分を含み独特の輝きを放つこの “フィッシュシルバー” は、現在は最古のピグメントとしてアイシャドウやマニキュアに配合されているが、その製法は複雑を極め、500 グラム 2000 ユーロという高値で取引されている。

1970 年代、ポルシェがメタリックカラーの実験を行っていた頃、当時チーフデザイナーだったアナトール・ラピーヌは、デビューしたばかりの 2 台の 911 カレラ 911RS2.7 にこのフィッシュシルバーを使った特殊塗装を施した。クリアラッカーを 10 層にわたり吹き付けることでピグメントの粗い粒子を塗膜の中にしっかりと閉じ込める技法にトライしたのだ。太陽光が塗装表面に当たると様々な光のスペクトルを発生させる特別な塗装が施された最初の一台は、フェリー・ポルシェの姉であり、1947 年にオーストリア・グミュントを拠点にポルシェを世界に広める原動力となったルイーズ・ピエヒに贈られた。

そしてもう一台、シルバーカラーの RS2.7 は、1972 年から 80 年までポルシェの社長を務めたエルンスト・フールマンの手に渡った後、“ポルシェターボエンジンの生みの親” として知られるハンス・メツガーに譲られ、彼が公用車として所有していた。メツガーはその後カルト的なステータスを築くこととなる 911RS 2.7 を売却したのだが、次のオーナーが 911 ターボスタイルのリアスポイラーに取り換えようとしていたため、取り外されたオリジナルのダックテール・スポイラーだけは彼の手元に残しておくことにした。「今は多少黄色く色褪せてしまいましたが、本来の美しさは不変です」とメツガーが語るフィッシュシルバーのダックテールは、今も彼の事務所に大切に飾られている。

Jürgen Gaßebner
Jürgen Gaßebner